カーボーンニュートラルなどの取り組みから、その国際標準の評価法としてのLCAを知ってちょっと勉強してみると、「LCAの理念はわかるが、いざやるとなると大変だ」と感じる人が多いはずです。実際にsxope1なら自分の管理しているところをきちんと押さえればよかったし、scope2でも電力のCO2発生原単位等を調べてきて、重油の念場などと同じように計算すればどうにか対応できたはずです。ところが、下図の鯖缶のLCAのようになると手に負えそうもありません。
缶詰め製造に携わっている人が、漁獲時の燃料や漁網の製造の環境負荷まで把握しなければならないというのはたまったものではありません。そんなところに注力するより、もっとよい缶詰めつくりに力を注ぎたいものです。
もちろん、このようなLCAが一発でできるのはLCAを専門的に行っている人だけです。しかし、そのようなLCAの専門家を雇ったり頼んだりできるのは、ゆとりのある大会社ぐらいで、モノづくりなどの現場に携わる会社では、せいぜいアドバイス料を払うぐらいで、自力本願で進めねばなりません。ここでは、そのような自力でLCAをやってみようとか、LCAの専門家にアドバイスを受けるにしても、まずLCAらしきものを経験してから判断しようという場合に、どのような手順で進めればよいか、を述べていきたいと思います。
それには、まず、環境を意識している企業ならほとんどやっているscope1から考えていくことが大事です。
scope1は直接排出ですね。この絵が青、桃色(scope2)、黄色(scope3)と広がっていくようにデータを積み重ねていけばいいのです。しかも、その時中心になるのは直接排出のデータで、それ以外のデータには、いろいろな助っ人がいるのです。
LCAに向けてのデータの構造を見ていきましょう。
まず、事業所でしたら、その事業に関する物品やエネルギー原料の入出力のデータはそろっているはずです。まずそれを基にして考えます。そこに、エネルギー原料の消費当りどのくらいの環境負荷を出しているかを示す「原単位」を持ってきます。これは統計表やデータベースになっているものもありますし、専門家に聞いても得られます。さらに、物質の消費についても、その物質の生産にどのくらい環境負荷をかけているかという「原単位」が公表されたり、データベースになっているものがあります。たとえばエコフットプリントなどはその例です。このように、事業所の入出力データと原単位データを組み合わせると、それだけで自社の環境負荷がリストアップされます。これを「自社インベントリー」として「環境帳簿」と呼ぶことにしましょう。
この自社の「環境帳簿」は、フォアグラウンドデータと呼ばれます。フォアグラウンドとは、バックグラウンドの反意語で、バックグラウンドが人からの後ろ支えなら、フォアグラウンドは「自分で取得した」ということだと理解してください。
このフォアグラウンドデータを、サプライチェーンとつないで、サプライチェーンのインベントリー(環境台帳)が出来上がります。「サプライチェーンとつないで」というのは簡単ですが、サプライチェーンのデータを独力で集めるのは大変です。ところが、そのようなサプライチェーンにかかわるデータをまとめてデータベース化をしているところがあります。それがバックグラウンドデータです。海外ではそのデータベースを事業として展開している会社もいくつもあります。日本でも産総研やSUMPOなどの機関がサポートしてくれるシステムがあります。このように、自社の入出力データをもとにフォアグラウンドデータを作れば、サプライチェーンのデータはバックグラウンドデータで得られる場合が殆どなのです。
なおGHGだけの環境ストレス因子だけでなく厳密に様々な環境負荷を考慮したきちんとしたLCAをやろうとすると、種々の環境ストレス因子の環境影響特性を整理するデータが必要になりますが、これも我が国では産総研で環境影響特性データを提供しているので、それとインベントリーを組み合わせることでLCAは出来上がります。
このように、LCAの理念をみていると、関連するサプライチェーンの隅々までデータを追いかける特殊な作業をしなければならないように思えますが、実はバックグラウンドデータや原単位データ、環境影響特データなどが準備されており、そのような周りの人では逆に入手不可能な、自社にかかわる環境帳簿を作成することが大切なのです。
これを、みんなの協力体制としてまとめたものが下の図です。